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 金の髪の青年が、ゆっくりと歩みを進める。囁くようにその名を呼ぶ。
「…主上」
「…すまない。心配をかけた」
 金の髪を持つ彼は、ゆっくりと陽子の前に足を進める。陽子は彼女の前で足を止める青年を見上げる。あれから、彼にずっと言いたいことがあった。自分を写し出す深い紫を見つめながら、陽子は微笑んだ。景麒。
「…お前のこと、嫌いなんかじゃないよ」
 景麒の瞳が、見開いた。
「…お前も、私と同じだ。でも…みんな気がついていない。お前だって…刹那に翻弄された一人だったんだな」
 景麒の表情が、苦しげに歪む。何かをこらえるように、彼はたまらず仏頂面を伏せた。
 
 人は彼を、傾国の麒麟と影でうたう。

 女王をたぶらかし、この国を傾けた無能な麒麟だと囁く。物語の中では、景麒はいつだって当然のごとくファムファタールのような記号として扱われる。
 だけど、物語を信じる者みんな気がついていない。

 彼だって、かけがえのない主を失い荒れ狂う世界に翻弄された一人だということを。
 
 景麒はうつむいたまま言葉を搾り出す。私は。
「…私はかつての主の暴走を止めることができず…何もすることができませんでした」
主上。
「ですが…今度こそ、私は信じたいのです。たとえ誰が何と言おうと、どれだけ私が木偶と呼ばれようと、貴方とこの場所に…新しい光を落とせると。貴方という〝朝〟を輝かせることができると」
 景麒は歯を食いしばる。思い出されるのは、あの日のこと。陽子の元まで、自由に解き放たれ駆けていくきっかけとなった時のこと。鎖に縛られた彼の元を、利広が訪れた時のこと。
 あの時、自分は心の底から絶望していた。
 新たな王が誰かわかるのに、自分はもう二度とこの場所から出られないのだと思った。鎖に縛られたまま、どこにもいけないのだと思った。そんな時に、蠱蛻衫を被った利広が彼の前に現れたのだ。だけどいくら奏に助力を願い出ていたとは言え、その時の景麒には彼が利広だなんてことはわからない。蠱蛻衫は、見る者の好ましい姿を幻として描き出す。

 彼の前に表れたのは――――予王だった。

 結局あの時の自分は何もかもに囚われたままで。今ならそれが利広だと分かっていても、景麒には穏やかに笑う彼の人こそが、すべてとして映し出された。彼の鎖を断ち切って景麒を見送った彼女の言葉が、忘れられなかった。

『もう自由になられたら、いかがですか』

鎖が砕ける音がした。時をこえ今、景麒はまっすぐ陽子を見据える。彼の鎖を断ち切った予王の声が、響いた気がした。

『慶国に…新しい〝朝〟を』

景麒は陽子の前で身をかがめる。景麒、と優しい陽子の声がした。
「…お前にとって、私は新しい〝朝〟なのか?」
 一度だけ、景麒はまっすぐに眩しそうに陽子を見上げる。そして―――――流れるように、彼女の前に伏礼した。
 言葉はいらなかった。
 景麒、そう優しく陽子は声を放つ。
「…私は行くよ」
 まるで散歩に行くとでも言うような軽やかさだった。
「…私がお前にとっての〝朝〟なのならなおさら」
 私が行くことで、あの人が止まる可能性がある限り。陽子の顔はどこまでも、いつもどおりの穏やかな顔だった。伏礼したまま、景麒の苦しそうな声がした。
「身勝手です」
「そうだね」
 諭すように落とされる陽子の声はどこまでも穏やかだった。淡い光の中。明度も彩度も純度も高い光の中。眉を八の字にして少し悲しげに、それでも―――突き抜けたように少女は笑った。体の淵からこぼれた光が目の前の景麒に向かって一直線に筋を創る。

 それでも。

「…恋なんて身勝手なものだろう」

 景麒の瞳が開け放たれる。きっと彼が、一番それを知っている。唇を噛み締め、彼は俯く。どこまでも自分たちは似ている。
 陽子は静かに微笑んだ。

「私を…和州州城の上空まで連れて行ってくれ」
 
桓魋も行ってしまった。そして陽子も同じように行ってしまう。景麒の瞳が苦しげに細められる。身勝手だと言いながら、この選択ができることがどういう意味を持つことなのか景麒にはまざまざと分かった。
だからこそ苦しかった。
一瞬後、景麒がいた場所には、一頭の麒麟が陽子の掌に頭を擦り付けていた。ありがとう、と微笑んだ陽子は景麒に飛び乗り、そして舞い上がる。次の瞬間には、陽子と景麒の姿は消えていた。きっと彼女は、とっくにこの朝水禺刀を握った瞬間に心を決めていたのだ。あの人を止められるすべての可能性にかけることに。王としての責任を果たす最後の行動。それでも王なんかじゃなく身近な人として鈴や祥瓊はきっと泣きながら怒るだろう。浩瀚はきっと皮肉を言いながら怒るだろう。夕暉や虎嘯はきっと心配しながら怒るだろう。――――――桓魋は一番激しく怒るだろう。だけどその時は誰も、彼女が行ってしまったことを知る者はいなかった。
―――二人を除いて。

開け放たれた扉の外側の両脇。
とっぷりと深い影の中、右側と左側、影にもたれて話を聞いていた薄荷色と夕焼け色の瞳が光る。

 霖雪と豪槍。

 腕を組んだ豪槍は遠方を睨んだまま、霖雪に向けて口を開く。
「…俺は何をすればいい」
 低く問う豪槍に、初めからその気だろうが、と霖雪は呟く。
「青辛を…呼び戻せ。そして和州まで連れてこい。お前が選んだ他の精鋭の武官たちと共に出来うる限りの最速で。まだ他の奴らはあの男を呼び戻すことの重要性に気がついていない…。陽子は止められない。あの男の存在が、陽子をこちら側に引き止める鍵となる」
無言の時間と前を見つめる視線の鋭さが、豪槍の了承を表していた。
 無表情な瞳がゆらりと炎を灯す。低く霖雪が呟いた。
「覚えておけ…陽子が救われるか否かは、俺とお前の才覚にかかっている…」
 一瞬だけ、二人の視線が交錯する。次の瞬間には、もう霖雪と豪槍の姿はその場から消えていた。全く違った性格の同じ境遇の二人の男。
 願いは同じだ。

:::::


「豪槍!」
 聞きなれた声に名を呼ばれ豪槍は振り向く。豪槍の名を呼び駆けてくる蓮皇の姿が目に入った。更にその後ろからは騎獣を連れた同期の武官たちが続いてこちらに向かっているのが見える。
「お前ら」
 弓をつがえた燈閃の低い声が走る。
「やっと見つけたぞこの狒々。…青師師を止めに行くのだろう」
「も~豪槍から話してくれないなんてがっかりだよ!まさか一人で行くじゃないでしょ?そんなのありえないよ、豪槍」
「そうッすよ。豪槍いつも一人で突っ走ろうとするんすから」
「…ずるい」
 豪槍は渋い顔を作る。豪槍の懐からふっと誰かの笑い声が漏れた。雹牙が驚いて後ずさる。
「わああ!ご、豪槍の懐から人の声がするッス!!怪奇現象ッス!!」
 だが当の豪槍は驚きもせず懐から巻貝の形をした呪具のようなものを取り出す。
「…何笑ってやがる霖雪」
『俺はお前が暴走しそうだったから心配していたが…武官の中にも出来る連中はいるらしい…。安心した』
 益々渋い顔をする豪槍に雹牙たちはまじまじと声の流れる貝殻を覗き込む。
先程、別れる前に霖雪は懐から巻貝のような呪具を取り出した。そして二つあるうちの片方を豪槍の手に押し付けた。
『それを…持っていけ。呪具に…改良を加えたものだ。妖魔や麒麟が物理的な距離や物を無視して遁甲ができるように…番のその呪具を持つ者同士は声だけだが離れてても連絡が取れる。無理をさせているその呪具が壊れるまでの間しか使えないが…それを通じてしばらくは俺と会話ができる』
『ってことは…お前はこれから向こうへ行くってことか』
 霖雪の瞳が据わる。
『そうだ…。俺は今から和州へ行き…できるだけ陽子の近くへ行って援護する』
 霖雪の瞳は無表情の奥に、今まで見たことないゆらりとした低い温度の炎を揺らしていた。だからお前は。

『…なんとしてでも青辛桓魋を――呼び戻せ』

 ぐっと豪槍は先程のやりとりを思い出しながら呪具を握り締める。懐に押し込めた時、胸元から霖雪の声が響いた。
『待て、豪槍』
「…何だ」
『実は…もう一人お前に連れて行って欲しい奴がいる』
「連れて行って欲しい奴?」
『きっと…お前が気に入る。脳筋の武官たちの大きな戦力にもなる。嘘はついていない…安心しろ』
 なんだそれは、と霖雪が言いたいことが分からず困惑した時に小柄な少年が豪槍たちに向かって駆けてくるのが見えた。見覚えのない顔に豪槍は眉根を寄せる。客人の装いをしているから、金波宮の人間ではないと思ったその時、理知的な顔をした少年が堰を切るように豪槍にすがった。
「貴方が…豪槍さんですか…?!」
「お前は…」
「僕は虎嘯の弟の夕暉と言います。現状を聞いて、兄さんや桓魋さん、景王のことが心配でいてもたってもいられずここを訪れました。霖雪さんという方から、ここに来れば兄の元まで行けると聞きました。どうかお願いです…。僕も一緒に連れて行ってください!知略戦には貢献できる自信があります!お荷物にはなりません」
 虎嘯、という言葉にぴくりと豪槍が反応する。見れば彼の背には手入れされた弓が背負われていた。豪槍はじっと夕暉を見つめる。試すように見つめる豪槍に、夕暉は凛とした声で言葉を重ねる。
「浩瀚様を維竜州城から救い出す戦略は僕が考えたものです。お役に立ちます。どうか…!」
 ピクリと蓮皇の眉が跳ね上がる。すごいね、と彼は笑った。
豪槍は目を眇める。確かにそれが本当だったらかなりの頭脳の持ち主だ。彼が来てくれたら大きな戦力になる。本当に信用していいものか一瞬思ったが―――虎嘯と顔立ちは全く似ていないこの賢そうな美男子の目の奥に宿る輝きは、確かにどこか彼と似ていることに彼は気がついた。
「…ついてこい坊主。虎嘯も青辛と一緒にいんだろう。あいつを止めんのは任せた」
 はいと強い光を目に宿した少年夕暉。豪槍は夕暉を加えた仲間たちに向かって声を張った。
「いくぞお前ら!!!なんとしてでも青辛を連れ戻す!!!!」
「おう!!!」
 豪槍たちは城下へと飛び出した。一気に下りながら、豪槍はいない桓魋に呟いた。
(行かせねぇよ…!!お前がいなきゃ、陽子は止まらないんだ…!!!)
 今までに出したことのない速さで精鋭の武官たちは堯天に向けて降りていく。

 だが。

 予想に反し、都に降りた瞬間豪槍の動きが止まる。止まった彼の背にぶつかった雹牙が不満げな声を上げるが、次の瞬間雹牙も豪槍の背を超えて見えたものに目を見開く。
「おい…!!これは…!!」
 彼らは予想もしていなかった目の前の光景に言葉を失った。目の前では―――。

 人という人が斬り合っていた。

 慶国中で、反乱が起こっているのだと分かった。

:::::


 目の前の惨状に言葉を失う豪槍たち。
おそらく今日という日のために潜んだ一般市民に扮した巧国の兵士たちが発端なのだろう。誰かが誰かを斬り、それがきっかけで疑心暗鬼の殺し合いが繰り広げられていた。
 目の前には合間を縫う隙間も見当たらない人が殺し合う分厚い壁。だが、一瞬後には表情を締め、状況を判断した夕暉が声を上げた。
「散りましょう!この戦塵をくぐり抜けて、今は桓魋さんを追いましょう!!!堯天から出た場所で落ち合うってことでいいですか!!!」
「了解!!!」
 瞬間、それぞれが四方に散り精鋭武官たちはあっと言う間にその場から消えた。豪槍も例外ではなく、力任せに殺し合いが行われている怒号を掻き分け前へ進む。だがあるところまで進んだ時、高い子どもの叫び声に豪槍の足が止まる。咄嗟に振り向いた瞬間、親からはぐれた子どもが殺されかけているのが見えた。
「うわああん!!お母さぁん!!!」
 
 かつて豪槍に突っかかってきたあの子どもだった。

 舌打ちをして豪槍は方角を変え槍を振りかぶる。
「やめねえかぁあ!!」
 刃を振りおろそうとしていた男を槍で吹き飛ばし、向かってきた者たちを殲滅する。呆然とする子ども明明は次の瞬間には豪槍に軽々と担ぎ上げられその場から跳躍していた。クソ野郎共が、と呟いた豪槍は跳躍しギラリと彼の瞳が子どもを映す。
「…怪我はねぇか。クソガキ」
 ふるふると体を震わせながら明明は豪槍を見上げる。次の瞬間。
「わあああぁあ!豪槍ぉお!!」
 涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、明明は豪槍の首にしがみついた。
「!!うるっせぇな!もう大丈夫だから力抜け!!耳元でピーピー泣くなクソガキ!!」
「ひっひっ…怖かったよぉ豪槍~!!!うああああん!!!!」
「おいい!!!」
 更に首に万力のようにしがみついて耳元で音量を上げた明明に豪槍は白目を剥く。ため息をつきながら小さな頭を大きな手でガシガシと撫でてやる。抱き上げられた豪槍の首筋に顔をうずめ、明明は彼の肩でわんわん泣いた。
 明明の背中を不器用にさすっていたその時、霖雪の声が響く。
『豪槍…お前ひょっとして…長兄か』
「…だったら何だよ」
『そうか。年はいくつだ』
「二十五」
『…俺は二十七だ。…年下の兄というのも悪くないな』
「げ!!テメェまさか末っ子か!!年上の弟なんざ死んでもいるか!!」
 だが、もう悠長なことを話している時間はなかった。現に――先程明明を助けたせいで目立ち過ぎた。
 その場を飛び出そうとした瞬間、飛び道具が頬を掠める。咄嗟にまだ首にしがみついている明明を庇い、豪槍は振り向く。
「…!!」
 背後から大量の武器を持った慶国の民が派手な動きをする豪槍に迫ってきていた。恐らくこの中の何割かは巧の兵士で、後は疑心暗鬼になった慶の民たちだ。
時間はない。ただでさえ全力で桓魋に追いつくしかないこの刹那の時間に豪槍は歯噛みする。
(クソ野郎…)
 選択を誤って、騙されているだけの民を殺すわけにはいかなかった。誰かの思惑によって作られた「今」に反吐が出る。歯ぎしりしたくなる。怒りで喉の奥が破裂しそうだ。
(こんなところで足止めくらってる場合じゃねぇのに!!)
 それでも乱闘は、待ってくれない。雪崩のように襲い来る人間を、豪槍はなんとか槍を回しながら振り払う。
「おいクソガキ絶対手を離すんじゃねぇぞ!!」
「え、ご、豪槍?!」
明明から手を離し、豪槍は迎撃態勢へと移る。集団を突破しようとした時、我武者羅にひとりの男が豪槍に向かって飛び出した。
「豪槍、お、お前も俺たちを殺しに来たんだろう?!!」
「ちげぇよ!!馬鹿が!!」
 槍を力任せに、それでもなんとか槍の穂先を当てないように振り回す。本来殺傷のために作られた槍の穂先を使わない無理な使用は、その分棒術のような威力を出すために豪槍の体の動きを大きくする。熱くなるあまり、豪槍が槍舞いの動きに集中しきったその時だった。
「ご、豪槍!わわっ!!」
 その瞬間、怯えた明明の豪槍を掴む手が滑った。豪槍から転がり落ち、軽い体は彼から離れるように地面を飛んでいく。明明はあっという間に人波に押し流されのまれていく。
「!!しまった!!おいクソガキ!!」
「わああ~!豪槍ぉ~!!!」
 豪槍は焦った顔で槍を振りかぶる。明明が豪槍に向かって泣きながら手を伸ばす。ギラリと目を光らせた一人が、すかさず子どもの喉元を一突きにしようと刀を振り下ろす。
 一瞬のことだった。
 豪槍の息が止まる。

 おい嘘だろう。そんなのってねぇよ。頼む。頼むよ。もう悪魔だって何だって良いから。誰か、誰でもいいから助けてくれ。ガキが死ぬのを見るのは、もう嫌だ。

「やめろおおぉお!!!」
 ごう、と嵐のような風が巻き上がる。その瞬間――蛮声が歓声のように響き渡る。
「は…?!!」
バタバタと瞬時に現れた男の羽織ものが風に嬲られる。突然現れたその男に、豪槍の瞳が見開く。明明を殺そうとしている男を目に映したそいつの口端が片側だけ大きく歪む。

 慶国禁軍将軍の鎧が鈍く光を弾く。

 龍熄の高らかな笑い声がその場に響いた。

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 龍熄の瞳が歪む。ぐっと口元の弧が深められる。鮮やかに明明を串刺しにしようとしていた男の首が飛んだ。全く迷いのない一刀両断のその後に、取れた首が回転しながら血を吹き散らす。
「うわああああ!!龍熄だぁああ!!!」
 周囲一帯から人が消えた。
 目を見開く豪槍に向かって、すくみ上がった明明が泣きながら駆けていく。豪槍によじ登り必死に龍熄から逃げるように明明は隠れた。助かったが、明明はぶるぶる震えすっかり龍熄に怯えきっていた。明明を庇いながら豪槍は思わず呟く。
「あんたは…〝人斬り〟…」
 バサッと束ねた量の多い硬い黒髪が翻る。ゆったりとした不敵な笑みを男は浮かべる。
「おーおー…きな臭い匂いがプンプンしやがる。潜り込んだハエどもの臭い…。小賢しい手ェ使う奴に限って…」
 飢えた獣のごとく、光る瞳が眇められる。言いながらするりと視線が飛び、次の瞬間飛び出した龍熄はひとりの男を片手で頭上高々と持ち上げていた。
「こんな風に潜んでやがるんだよ!!!何勝手に人様の縄張り荒らしてくれてやがんだ!!!アァン?!」
 畜生!!と見破られた民に扮装した兵士が叫ぶ。ギラリと龍熄を睨む。
「く…俺は見つけたみたいだが…お前らにはどこに何人…巧からの兵士が潜んでいるのか分からないだろう…!!完全に紛れ込んでお前らには見分けがつかない!!!お前らには手も足も出せんわ馬鹿どもが!!!」
 一瞬真顔になる龍熄。勝ち誇った顔をする巧国兵士。だが次の瞬間――――龍熄はくつくつと笑い出した。
なにぬりぃこと言ってやがる。頭沸いてんのか。
「関係ねぇよ」
 昏い光が瞳に歪む。誰かわかんねぇんなら…

「…皆殺しにすりゃ話は速ェだろう…」

轟々と唸る風の中―――――龍熄の瞳が、輝いた。


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